水中

スポーツ大会の打ち上げ、参加するなんて言わなきゃ良かったな。

最初に思ったのは、出場競技だったサッカーで、ボールに一度も触ることなく、ほかの選手との交代を言い渡された時。
その次は、自分達のクラスの総合成績が、準優勝と決まった時。

そして、今。

食べ放題のスパゲッティを前に、誰と喋るでもなく、店の窓から見える電線を、ぼうっと眺めている。

隣の席で話す、クラスメイトの声が遠い。
みんな、僕のことが見えていないみたいだ。

味気ないペペロンチーノを啜る。
高校生が打ち上げをする店なんて、たかが知れてる。
なのに、他のみんなは、美味しそうにそれを食べる。
吐きそうになる。動悸が止まらない。トイレに駆け込む。

個室に入って嗚咽する。別に、誰も僕を気にしない。ただの自意識過剰だ。わかっているのに、耐えられない。

幹事の村山さんに、参加費2500円を払って、店を出た。
不味いペペロンチーノと、薄いコーラ。月々の小遣いは500円。

店を出て、親から貰ったウォークマンに、100均のイヤホンを挿す。
音漏れするかしないかの音量で聴く、暗い邦楽ロック。
他人の言葉で、人生を憂う。

親には21時くらいに帰ると伝えたから、あと2時間以上暇だ。

時間つぶしにと、ゲーセンに入る。お金もないから、他人がプレイしてる格闘ゲームを眺めていたら、去り際に耳元で舌打ちされた。

結局、古本屋で立ち読みをする事にした。
ジャンプ漫画は、読む気分じゃない。アフタヌーンかな。

頃合いを見て古本屋から出ると、向こうにクラスメイトの姿が見えた気がして、慌てて隠れた。
結局それは他人の空似で、情けなくて、また吐きそうになった。

多分、明日は学校をサボるだろう。
近所の図書館にでも、行こうかな。

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5/29

美容院で髪を切ってもらっている時に、ふと最近話題になった蛇の話になった
美容師は、爬虫類を買う人の気がしれないと言う
ネズミを餌にあげるだなんて、同じ生き物なのに、と
彼に、その言葉の違和感を伝えるほど子供じゃなかったけれど
それを日記に書かないほど大人じゃなかった

かくしごと

f:id:HOTOGA_Yu:20210515215129j:plain「明日の試合、クソめんどい。」
隣に座る百花がごちる。
私は、なんだか気まずくて、無言でアイスを食べていた。
いつもの公園のベンチに並んで座り、こうして百合と話す時間は、とても大好きで、そして、時々億劫だった。
「てかさ、高橋のことだけど...」
またひとくち、アイスを齧る。バニラ味、美味しい。甘く、クリーミーな味わいが口いっぱいに広がる。
「やっぱ彼女居んのかな」
食べている間はこんなに美味しいのに、食べ終わってしまった後、不快な甘味が口内で尾を引く。バニラアイスの、こういう所が苦手だ。
「あーあ、試合行きたくないな」
食べ終わったアイスの棒きれをコンビニの袋に放り込み、何となく地面を見つめる。
アスファルトの隙間。無数の蟻が巣を作り、巣穴の出口を忙しそうに、出たり入ったり。
「沙恵は知らないの?高橋のこと。」
百花からの視線に気付かない振りをして、なるべく平然とした態度を取る。
「知らないよ、クラス違うし。」
胸の奥がざわつく。無意識に、人差し指と親指を擦り合わせる。緊張した時の、私の癖だ。
「ふーん、そっか。」
ベンチを覆い隠すようにして咲き誇る藤の花が、春の風にそよぐ。
いやらしく、甘ったるいバニラアイスのあと味と、忙しなく働く無数の蟻と、どこか遠くを見つめている親友と。
気まずい沈黙の間を通り抜けるキビタキのさえずりが、まだ見ぬ夏の訪れを感じさせる。

5/10

飛行場の朝

数十キロ先に聳える連峰の麓 低空の虹が掛かるのをみた
それはもはやアーチではなく、七色の地層が重なる丘
飛行機越しに見える光景は、まさに夢物語のひと幕
そんな幻想世界を生きる妖精達が恋焦がれるのは、惨たらしくも生々しい地上界であるとすれば
ままならない世の中も、ちょっとは面白く思えるのかもしれない

5/7

異世界への扉

中古車ディーラーの店先で、生垣に咲くツツジ
花びらを伝う雨滴を覗き込めば、その向こう側にはどんな世界が見えるだろうか
でも、覗き込むことが出来なかった
つまらない大人になってしまったので

5/6

見つめ合い

何処から入り込んだのか
寝転がった視線の先、ハエトリグモがダンスを踊っている
電源タップをステージに、くるりくるりとターンアラウンド
前を向いても後ろを向いても目が合うので
ちょっと恥ずかしい気持ちになりました