かくしごと

f:id:HOTOGA_Yu:20210515215129j:plain「明日の試合、クソめんどい。」
隣に座る百花がごちる。
私は、なんだか気まずくて、無言でアイスを食べていた。
いつもの公園のベンチに並んで座り、こうして百合と話す時間は、とても大好きで、そして、時々億劫だった。
「てかさ、高橋のことだけど...」
またひとくち、アイスを齧る。バニラ味、美味しい。甘く、クリーミーな味わいが口いっぱいに広がる。
「やっぱ彼女居んのかな」
食べている間はこんなに美味しいのに、食べ終わってしまった後、不快な甘味が口内で尾を引く。バニラアイスの、こういう所が苦手だ。
「あーあ、試合行きたくないな」
食べ終わったアイスの棒きれをコンビニの袋に放り込み、何となく地面を見つめる。
アスファルトの隙間。無数の蟻が巣を作り、巣穴の出口を忙しそうに、出たり入ったり。
「沙恵は知らないの?高橋のこと。」
百花からの視線に気付かない振りをして、なるべく平然とした態度を取る。
「知らないよ、クラス違うし。」
胸の奥がざわつく。無意識に、人差し指と親指を擦り合わせる。緊張した時の、私の癖だ。
「ふーん、そっか。」
ベンチを覆い隠すようにして咲き誇る藤の花が、春の風にそよぐ。
いやらしく、甘ったるいバニラアイスのあと味と、忙しなく働く無数の蟻と、どこか遠くを見つめている親友と。
気まずい沈黙の間を通り抜けるキビタキのさえずりが、まだ見ぬ夏の訪れを感じさせる。

5/10

飛行場の朝

数十キロ先に聳える連峰の麓 低空の虹が掛かるのをみた
それはもはやアーチではなく、七色の地層が重なる丘
飛行機越しに見える光景は、まさに夢物語のひと幕
そんな幻想世界を生きる妖精達が恋焦がれるのは、惨たらしくも生々しい地上界であるとすれば
ままならない世の中も、ちょっとは面白く思えるのかもしれない

5/6

見つめ合い

何処から入り込んだのか
寝転がった視線の先、ハエトリグモがダンスを踊っている
電源タップをステージに、くるりくるりとターンアラウンド
前を向いても後ろを向いても目が合うので
ちょっと恥ずかしい気持ちになりました

5/5

橋と車窓

晴れた日の穏やかなせせらぎは美しい
大雨の日の荒れ狂う濁流は恐ろしい
涼やかな音を響かせる山奥の上流から、濁りきって異臭を放つ都市部の下流まで
全部、繋がっていると思うと、やっぱり不思議だ
この橋の上を、忙しなく行き来する車のその行く先に流れる、それぞれの生活に思いを馳せる

5/4

他人事

人が救急車に運ばれるのを見たのは、今日で2度目
電車の人身事故で運ばれた人を思い出すと、痛いのは嫌だなって思う
今日は救急車に運ばれるの直前の人の顔を見た
やっぱり、痛いのは嫌だなって思う
同時に、他人事だなって思う