水中

スポーツ大会の打ち上げ、参加するなんて言わなきゃ良かったな。

最初に思ったのは、出場競技だったサッカーで、ボールに一度も触ることなく、ほかの選手との交代を言い渡された時。
その次は、自分達のクラスの総合成績が、準優勝と決まった時。

そして、今。

食べ放題のスパゲッティを前に、誰と喋るでもなく、店の窓から見える電線を、ぼうっと眺めている。

隣の席で話す、クラスメイトの声が遠い。
みんな、僕のことが見えていないみたいだ。

味気ないペペロンチーノを啜る。
高校生が打ち上げをする店なんて、たかが知れてる。
なのに、他のみんなは、美味しそうにそれを食べる。
吐きそうになる。動悸が止まらない。トイレに駆け込む。

個室に入って嗚咽する。別に、誰も僕を気にしない。ただの自意識過剰だ。わかっているのに、耐えられない。

幹事の村山さんに、参加費2500円を払って、店を出た。
不味いペペロンチーノと、薄いコーラ。月々の小遣いは500円。

店を出て、親から貰ったウォークマンに、100均のイヤホンを挿す。
音漏れするかしないかの音量で聴く、暗い邦楽ロック。
他人の言葉で、人生を憂う。

親には21時くらいに帰ると伝えたから、あと2時間以上暇だ。

時間つぶしにと、ゲーセンに入る。お金もないから、他人がプレイしてる格闘ゲームを眺めていたら、去り際に耳元で舌打ちされた。

結局、古本屋で立ち読みをする事にした。
ジャンプ漫画は、読む気分じゃない。アフタヌーンかな。

頃合いを見て古本屋から出ると、向こうにクラスメイトの姿が見えた気がして、慌てて隠れた。
結局それは他人の空似で、情けなくて、また吐きそうになった。

多分、明日は学校をサボるだろう。
近所の図書館にでも、行こうかな。

f:id:HOTOGA_Yu:20210607213710j:plain